瀬崎祐詩集『水分れ、そして水隠れ』(2022.7刊)

詩集を手にしたとき、沼の水面がゆらいでいる映像が脳裏に浮かんだ。音も色もなくかすかにゆれる水面。そのイメージは、薄明るいのに霧で見通せず、足元は暗くてより見えない不思議なカバー写真から想起させられたのかもしれない。 読みはじめてすぐに、その…

森田美千代詩集『片道切符の季節』(2021.9刊)

夏の終わりのある日、詩集が手元に届いた。装画の柔らかな配色がやさしい。著者二冊目のこの詩集は三部構成で三十三編を収録している。第一詩集『寒風の中の合図』と装丁や版型を統一しているところから作者のこだわりを感じる。望郷と日常を情緒豊かに描い…

再び。

しばらく休んでいた読書ブログですが、はてなブログに引っ越して気持ち新たにまた始めます。詩誌に掲載した文章も加筆訂正して載せていく予定です。

木村恭子詩集『調理の実習』(2021.7刊)

コンパクトで簡素な造りの詩集を手にする。第7詩集。43篇を収めている。手作り風でちいさくて、でも内容は濃く、個人詩誌『くり屋』に通じていると感じた。どちらも一筋縄ではいかないものを持っている。 台所用品が題材となっている作品でまとめられてい…

大西美千代詩集『へんな生き物』(2021.6刊)

16年ぶりの第7詩集。29篇が収められている。 表紙には古代壁画の猿のようなイラストが載っている。猿かな?、猿だな、ん?でもトカゲにも見える。変なの。ふふっと笑ったら、タイトルが「へんな生き物」なのに気がつき、またふふっと笑った。 大西美千…

ピエール・キエ著『バシュラールの思想』は篠沢秀夫訳だった

先週、注文していた本が届いた。 『バシュラールの思想』ピエール・キエ著 見たところ、これまでの本とは違い、 とても読みやすそうだ。買ってよかった。 訳は篠沢秀夫とある。 ん?篠沢秀夫・・・? もしや、昔見たテレビ番組「クイズダービー」で 回答者と…

『空間の詩学』本章に触れて思うこと

どうにか序章を読み終え、今第1章を読んでいるのだが、これまでのような書き方では表面をなぞるだけになってしまうと思い始めた。書き写すだけで満足してしまいそうだ。 なので、詩作の糧になりそうな印象的な部分を抜き書きし、解読できないことは他の書物…

『空間の詩学』序章Ⅸ

◆序章Ⅸ(p036-042) ようやく最終節に来た。 序章の最後の節にあたるここでは、 本書の研究範囲と本章の外観が述べられている。 〇本書で探究すること ・幸福な空間のイメージの検討(トポフィリ〈場所への愛〉) ・空想の存在の豊潤さ ・詩的イメージの現象…

『空間の詩学』序章Ⅷ

◆序章Ⅷ(p034-036) 引用〔強調部分も本文〕 「想像力を人間の本然のもっとも大きな力とみなすことを提案したい」 「現実的なものの機能は過去にまなんだ賢明な機能であり、この種のものは古典的心理学によって解明されてきた。だがわたくしがまえの著作にお…

『空間の詩学』序章Ⅶ

◆序章Ⅶ(p032-033) 引用 「知識には同じく知識をわすれる能力がともなわなければならない。不知(ノン・サヴォワール)とは無知ではなくて、知識を克服する困難な行為である。この代償によって作品はたえず一種の純粋な開始となり、創造は自由の行使となる…

『空間の詩学』序章Ⅵ

◆序章Ⅵ(p027-031) 引用〔強調部分も本文〕 「もし詩的イメージに関して、純粋昇華の領域を分離できれば、おそらく精神分析学の研究と比較して、現象学のしめる位置がさらに正確にしめせよう。この純粋昇華とは、情念の重荷をすてさり、欲望の圧力から解放…

バシュラールの難解さについて

ここまで序章を一節ずつ、半分まで読んできたが、やはりバシュラールは読みにくい。心に留まる言葉を読み込もうと思っても、周囲にいくつもの意味や思想が巻かれていて、輪郭がうやむやになっていく。序章でさえそうなのだから、本章はどうなるのか。他の人…

木原孝一 散文詩集『星の肖像』(1954年)

時計塔 僕はまだ着なれない背広を気にしながら僕の尊敬 する詩人のひとりと舗道のうえを歩いていた。 晩春の微風が頬を吹き花花のようにイルミネイションが 夜の街角を飾っていた。僕らは新しい映画や雑誌や衣裳 などについて家禽類のように話していた。ふと…

『空間の詩学』序章Ⅴ

◆序章Ⅴ(p025-026) 引用〔強調部分も本文〕 「詩的想像力についての一次的な現象学的研究においては、孤立したイメージ、これを展開するフレーズ、詩的イメージを放射する詩句、ときには節が、ことばの空間を形成する」 「この空間は地形分析(トポアナリー…

『空間の詩学』序章Ⅳ

◆序章Ⅳ(p021-024) 引用〔強調部分も本文引用〕 「このようにわたくしの研究は、純粋な想像力からうまれでてくる、根源における詩的イメージに限定し、多数のイメージの集合としての詩の構成の問題は扱わない」 「文芸評論家は、しばしば指摘されていること…

『空間の詩学』序章Ⅲ

◆序章Ⅲ(p017-020) 引用 「共鳴(レゾナンス)と反響(ルタンテイスマン)という現象学的姉妹語を鋭く感じとれる可能性がここにあることに注意しなければならない」「共鳴は世界のなかのわれわれの生のさまざまな平面に拡散するが、反響はわれわれに自己の…

『空間の詩学』序章Ⅱ

◆序章Ⅱ(p011-017) 引用〔強調部分も本文引用〕 「現象学だけが――つまり個の意識の内部でのイメージの出発を考察することが――われわれにイメージの主観性を恢復させ、イメージの超主観性の意味、力、豊かさを測定してくれるのである。この一切の主観性、超…

『空間の詩学』序章Ⅰ

ここで、この本の読みの方向を明確にしておきたい。 究めたいのは読書感想や批評ではなく、 あくまで、この書物に書かれていることが 私自身の実際の詩作過程にどのように立ち現れるのか、 あるいはまったくかかわりない流れなのか、ということ。 そのための…

略歴

ガストン・バシュラール(Gaston Bachelard, 1884年6月27日 - 1962年10月16日) フランスの哲学者、科学哲学者。1940年よりソルボンヌ大学教授。科学認識論関係と詩的想像力関係の二分野について考察した。晩年は詩的想像力の研究にも多くの業績を残した。 …

ガストン・バシュラール『空間の詩学』/章立て

『空間の詩学』/岩村行雄訳 (ちくま学芸文庫 2002年) 章立て 序章 第1章 家・地下室から屋根裏部屋まで・小屋の意味 第2章 家と宇宙 第3章 抽出・箱・および戸棚 第4章 巣 第5章 貝殻 第6章 片隅 第7章 ミニアチュール 第8章 内密の無限性 第9章…

ガストン・バシュラールへの興味

これまでに詩集を数冊出版し、 自分が何を表現しようとしているのか、 頭の奥にはイメージがあるのだけれど、 なかなか言語化できずにいた。 数年前にふとしたことでG・バシュラールを知り、 彼の後半生のいくつかの書物に、 わたしが表現したいことに近い…

まるらおこ詩集『つかのまの童話』(2018.10刊)

詩集を手にして、まず表紙カバーに描かれた6羽のオウムが目に入った。熱心に話を聞いている者・あくびしている者・包帯をしている者。どのオウムもユーモラスで、似ているようで少しづつ違っている。 この詩集はまるらおこ氏の第一詩集で、41篇の作品が収…

『佐々本果歩詩集』佐々本果歩(2018)

佐々本氏はこれまでに2冊の詩集を出版している。《第1詩集『ロプロプ』(草原詩社 2003年)、第2詩集『よるのいえのマシーカ』(ふらんす堂 2013年)》 詩集と詩集のあいだに、少し簡素な造りの小詩集をいくつか出している。 今回紹介する詩集は昨年の冬…

秦ひろこ詩集『球体、タンポポの』(2016刊)

2016年に出版された秦氏の第4詩集。 27作品で編まれたこの詩集には、植物や動物、身の回りの物が登場する。作者はそれらを受け入れ、時には同化し、自分と他者の境界をなくしていく。境界をなくす、というより両者が重なる部分ができる、といったほうがいい…

阿瀧康詩集 『Imitation pearl3』

阿瀧氏の詩集は『0.5歩』『ボートの名前』『Imitation pearl』『Imitation pearl2』を持っている。この詩集は2011年に作成した『Imitation pearl2』の改訂版で、私家版35部作成、55編の作品が並んでいる。 初期詩集『0.5歩』『ボートの名前…

岩木誠一郎詩集『余白の夜』(2018.1刊)

岩木氏は1959年生まれ。 8冊目になるこの詩集には22篇の作品が収められている。 1篇目の「夜のほとりで」の夜中の台所で1杯の水にたどり着き、最終篇の『雨上がりの夜に』にてその水を飲み干す。 そのわずかな隙間に、記憶が静かに、かつめまぐるしく行き…