阿瀧康詩集 『Imitation pearl3』

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阿瀧氏の詩集は『0.5歩』『ボートの名前』『Imitation pearl』『Imitation pearl2』を持っている。この詩集は2011年に作成した『Imitation pearl2』の改訂版で、私家版35部作成、55編の作品が並んでいる。
初期詩集『0.5歩』『ボートの名前』もとても好きな詩集だ。削りに削ったシンプルでユーモアのある、飛躍した表現の詩が並ぶ。
その2冊の詩集と比べると今回の詩集は(特に最近書いたとされる「春夏秋冬」は)長い作品が多く、おのずと使われる言葉も増えている。言葉が増えた分、彼独特の理屈の上に理屈が重なり、日常の情景のなかで幾重にも反射していて、読み手はその中ではぐらかされ、笑わされ、しばらくして困る。
ふと、日常の情景がずれて日常でなくなっていることに気がつくからだ。
 
垣根というのはいいね
態度だからね
比喩じゃないからね
その下に開いた穴から 猫が
出たり入ったり
  (「ホテルと魚と猫と犬と形」― 3、all my loving )
 
プラット・フォームが増えれば乗り込んでくる人も増える
僕たちに混ざる人も増える
ユニクロにパンツを買いにいくときもそうだけれど
なにかもっと買って
袋に詰めて持って帰れるものがあると思う。
          (「中学生」― 1、虫 )
 
「蝉の声 ミンミン」なんて書いた紙が
何枚も降ってくる
見上げてもその撒き始めがわからないくらい きょうの空は高く まぶしく、
  (「近所」― 3、指 )
 
世界が微妙にゆがんだところには隙間が生じ、ちらちら違うものがみえてくる。その見えるものはけっこう切実なものだったりもする。
わたしが一番惹きつけられたのは「春から夏へ」5編のうちの「1、レジ袋」。後半を引用する。
 
一度野菜を運んだレジ袋
それは、風にたかく舞い上げられてから
かならず墓石にひっかかっている。
単純に白いそいつを 午後は 引きはがしに行く。
日々の暮しと墓地までの距離
そこに落差があれば また風が立って
「膨らんだまま往来を」
なんにも入ってないレジ袋が 本当に
吹き飛ばされていく。
 
墓石にかならずひっかかるレジ袋。
それは漫画の一コマの墓石の吹き出しのような、あるいは、墓石から出ようとする魂のように思える。
それを淡々と引きはがしに行く姿が、おかしくもかなしく、いつまでも頭から離れない。